ストロボみたいに

ミルクティー のめません

日記25 愛される方法

朝から死にかける夢を見たのがよくなかった。

十時間くらい眠ってご飯作って仕事に行って。いつも通り。元気だった。私は職場で明るい子で、たぶん、周りにあんまり元気なタイプの子がいないから余計にそう見える。人見知りするけど、まあ自分から声を掛けに行くことはできる。だって頑張ったから。最初からできた訳じゃない。

家に帰ってからご飯を食べて眠って、変な時間に目が覚めた。変な時間だったけどこうなるだろうな、この時間に目が覚めるだろうなって分かってた。ちゃんとメイクを落としてお風呂に入って眠るのが正しかったのに。

なんかダメだなーと思った。深夜のコンビニへ行った。ものすごく心が踊った。夜だった。昨日はあんなに暑かったのに、暑くてイライラしたのに、今夜はびっくりするくらい寒かった。ようやく冬が来た。小雨が降ってた。あの頃聴いてた音楽を聴いた。

レジのおばちゃんがなんかよくわかんなくて、前々から「変な人だなー」とは思ってたけどやっぱり変だった。こういうこと、前だったら真っ直ぐに傷付いてたな。成長したな。強くなったな。でもあの頃から根っこは変わってない。

もうぜーんぶ嫌!

「文章を書かないと死ぬ」と思っていた頃よりずっとずっと上手く生きてしまえて、それでも生きづらいけど、私はもう文章に縋り付かない。成功してやるって気持ちがもうなくなっている。恋に浮かれて、落ち込んで、毎日を必死に生きる普通の若い女になってしまった。いや、元からそうだった。なんにもなかった。なんにももってなかった。特別なかわいさも、特別な容姿も、特別な才能も、なーんにも持ってなかった!分かってた。分かってたから何かが欲しかった。なんにもないからいつも作ってた。必死で、自分だけの物が欲しくて、作ってた。

職場の人が優しい。みんなと仲良くしてる。たぶん、私が一番みんなと仲良い。運が良かった。年齢とか、入る時間帯とか。でもそれも私の物だ。私の力。嫌いな人もいるけど。その人だって未だに愛したいと思っているし愛されたいと思っている。

愛されなかったから愛される方法に長けている。

べつに嘘じゃない。職場での私だって本当だ。後輩の男の子達が仲良くしてるのを見て「いいなー楽しそう」と言ったら「××さんもいつも楽しそうですよ」と言われた。分かる。いつも楽しいもん。ほんとだよ。楽しいって言うのも本当。楽しめちゃうんだもん。でもずっと、もうずっと何かを諦め続けてる。全部どうでもいいみたいに思う自分がいる。何にも言わないで、じーっとこっちを見てる私がいる。他人事みたいな、私。

疲れてるんだ、ずっと。

みたいなことを考えながらアイスを食べた。美味しかった。あの頃ハーゲンダッツを六個も買い占めたことを思い出した。一人暮らしで、知らない土地で、足を壊して、心を壊して、動けなくなって、ようやくお給料が入って、光が強すぎるスーパーに行って…。

人が生活するのを見るのが辛かった。

私がだめだめだってばれちゃうのが怖かった。

私は…

今の私は、働いている。自分で稼いだお金で食料を買って、生活している。爪だってつい最近ジェルネイルを自分でしてみた。夢を叶えていく。どんどん、自分の力で夢を叶えていく。夢を殺していく。あの夏の、あの人のライブ。会わなきゃ。君に会わなきゃ。好きなんだ。誰よりも。一番。

地元に帰りたいと思った。私だけの悪い町。長い時間電車に揺られて、寒い、灰色の町に帰りたい、と思った。本を読んだり、音楽を聴いたりしてあの町に向かう。大好きな工場の前。私によく似た草臥れた町。大好き。ここしかない。私はここにしかないって思い出させてくれる。確かめさせて。愛してるから、あいして。愛してるでしょ?私の事。

これから食器を洗って、シャワーを浴びて、湯船に浸かって、スキンケアして、髪を乾かして…明日に備える。明日に向かう。働く。こういう夜があっても、いいよね。こういう夜こそが私だよね。

明日も、明日からまた新しく頑張るのだ。私は。